『水木しげるの遠野物語』 感想

遠野のカッパは赤いのだ。

遠野物語』が刊行されてから今年でちょうど100年になるそうです。*1遠野物語』とは、日本民俗学の父・柳田國男岩手県遠野地方の民話(昔話、怪異譚など)を収集し本としてまとめたもので、このたび水木しげるがコミック化。水木先生の緻密で瑞々しい作画を存分に堪能できる1冊です。本屋に行った帰りの電車でずっと表紙に見惚れてました(怪しい)。なんと言うか"黒"の入れ方が最高なんです。中表紙の夕焼け空と影絵のような真っ黒な木のコントラストの美しさといったら!この色彩がタマらん!多少お値段が高くなっても良いから中の方の扉絵もカラーで収録して欲しかったなぁ。
山深い遠野で農業に勤しむ素朴な人々の暮らしに、ふっと交わる異界の住人たち。『遠野物語』の面白いところは、成立時期や作者が不詳な他の昔話とは違い、我々の世界と地続きな生々しさがあるところ。ザシキワラシ・カッパ・山男といった妖怪の類が登場する不思議なハナシなんですけども、語り出しが「栃内村和野の佐々木嘉兵衛という男が…」「祖母が幼い頃…」という具合で、主体となる人物や場所がかなり具体的なんですね。本人から直接聞いた話とかもあったと思う。こんなに怪異と身近な土地があったんだな。人間界と妖怪達の世界はいわゆる”裏表”みたいなかっきり分かれた関係ではなくて、いつも重なり交わっている世界なんだろうかと想像が広がります。”感じ”の良い人だけがその存在に気づけるんだ。遠野は、今も”感じ”られそうな空気が残っている所らしいです。人生で1度は行ってみたい所のひとつ。

*1:記念イベントが多く予定されており、水木先生のキャラクター(カッパ)が「『遠野物語』発刊100周年記念事業」のオフィシャルサポートキャラクターになっています。